ALPEE ALLNIGHT DREAM

 

 

幕明けはオーディエンスによる大合唱だった。
彼らを囲むように花道が巡らされた六角形の
特設会場は6万人の熱唱で埋め尽くされた。
『東京ドリームランド』建設予定地を借りて行な
われたこのオールナイト・コンサート、そんな夢
のある場所柄のせいか、ALPEEにとっても、
オーディエンスにとっても、メモリアルな一夜に
なりそうな予感があった……

COPY ● SEI MAKINO

※ SEI MAKINO(真木野聖) …  minakoのペンネーム

*    *    *    *    *

 

 

太陽が少し傾き始めた頃、ファンのALPEEコールを一瞬にして静まらせるように突然『GOOD EVENING!』のイントロが会場を包んだ。
メインステージはまだ無人である。
客席はざわめいたが、イントロが終わっても、ALPEEは姿を現わさない。
オーディエンスの間から、自然発生的に『GOOD EVENING!』の大合唱が始まった。
聞こえるのは女の子の声ばかりだ。
男の子も4割位いる筈なのに元気が無いなぁ、と思っていたら、間奏に入ってすぐ、いきなり、『おい!男ども!元気がねぇぞ!』とスピーカーから作崎の大音声!
でも、メインステージには、人影すら見当たらない。

 

 

会場案内図

 

すると、後ろの方のオーディエンスから大歓声が!そう、メインステージばかりに注目していたみんなは、ALPEEに裏をかかれちゃったね。
3人はバラバラの場所から登場したのだ。
坂羅井はA、高根沢はC、そして作崎はEの位置に、それぞれのギターを抱えて現われた。
3人はそのままの場所で2コーラス目を歌い始めた。
コンサートのオープニングに相応しい、アップテンポな曲だ。
オーディエンスもジャンピングをしたり、手拍子をしたり、思い思いの乗り方で楽しんでいる。
エンディングをジャ〜ン!と引き伸ばしながら、ALPEEはそれぞれ、花道を思いっ切り走って、メインステージへと移動した。
一番足が速かったのは、高根沢選手。続いて、坂羅井がゼーゼー言いながらメインステージに到達した。
作崎はと言えば、途中で諦めて歩き出しちゃった。だって遠いんだもん。
しかし、メインステージの上では、ちゃんと坂羅井と高根沢が、作崎が来るまでギターをせわしく掻き鳴らしながら、エンディングを伸ばして待ってくれている。
なんかいいなぁ。この3人のトライアングル。高根沢が、歩いて来る作崎を見ながら楽しそうに笑っている。
やっとメインステージに到着した作崎に、自分のマイク・スタンドの前で坂羅井が『遅いよ!』とひと言。
そして3人は息を合わせてジャンプ!長かった1曲目が終わった。
「やっほ〜♪ALPEEだっよ〜ん♪今日はお天気に恵まれて良かったね!寝不足の人はいませんか?朝までずうっとALPEEと一緒だから、みんなぺーす配分を考えて、余り無理をしちゃ駄目だよ〜ん♪折角の楽しい夜なんだからね♪」
珍しく、第一声は坂羅井だった。作崎はもうすっかり呼吸も整って、ニコニコしている。
赤いスーツを着ている高根沢に、いつも使っているその色を譲った作崎は、黒のタンクトップにショッキングピンクのパンツルック。
サスペンダーもピンクに統一していて、とっても可愛い。(あ!失礼。でも本当なんだ)
坂羅井は深い紫色のスーツで、ロングジャケットの高根沢とは対照的な短いトップがとても彼らしい。
勿論、ネクタイは坂羅井ブランド(?)のハートマーク入り!それにしても坂羅井って、紫色が似合うんだ。
ちょっと意外だったな。
2曲目は、この日の為に高根沢が、3コーラス目の歌詞を追加したと言う、『Happy Birthday,Dear Only Love!』。
1コーラス目を坂羅井が、2コーラス目を作崎が、そして3コーラス目は高根沢がリードヴォーカルを取った。
メインステージは少しセリ上がっていた。
少しでもオーディエンスがステージを見やすいようにと言う配慮が、いろいろとなされている。
メインステージには機材と楽器以外に、余分なセットは何1つない。
おまけにこのセリは全方向に回転する事が出来る。
今回は花道も思いっきり使うので、本当にオーディエンスにとっては何処で見ても不公平の無い、ステージの造りである。
更に、今回は新たな試みがあり、実はバックのサポートメンバーが1人もいない。高根沢が足元のスイッチを操作して、コンピュータ制御で音を出している。
勿論、ALPEEは生音を大切にしているから、必要以上にそれを使う事はしない。
でも、高根沢の周りにはキーボードが彼を囲むようにして並んでいるし、作崎の前にはオクタパットがセッティングされている。
 ※オクタパット … 叩く部分によっていろいろな打楽器の音が出る電子楽器
坂羅井のマイクスタンドにもパーカッション類がいくつか掛けてある

つまり、今までレコーディングの時にしか見られなかった3人がステージにいるのだ。
『ALPEE』はキャリアが長いにも拘わらず、オーディエンスの前でそこまでやって見せた事はなかった。
自分が本来担当する楽器に専念するだけでも、大変な事だからだ。特に野外のオールナイトコンサートでは尚更である。
ギターを抱いたままキーボードを弾く高根沢は、ファンにとっては新鮮な筈だし、見たかったシーンに違いない。
坂羅井も作崎も、いつもとは違った面を見せてくれて、見ていてとても感激した。
コンピュータ・サウンドが入っていても冷たい感じがしないのは、そのサンプルを彼ら自身が生音で丁寧に入れた事が大きい。
そして、3人の人柄と、彼らが大切にしているギターサウンドとのスクラムがきっちりと組まれているからであろう。
1回目のバラードコーナーは、初期のナンバーをアコースティック・アレンジで再現する、と言う魅力的なコーナーだった。
坂羅井と作崎はメインステージの上に譜面台と椅子を用意して貰って、そこに座った。
高根沢はスタッフが4人掛かりで運んで来たグランドピアノの前に位置を占めた。
余談だが、高根沢はマイクが音を拾っているのを忘れて『ご苦労さん』とスタッフを労っていたっけ。
その後、客席がわぁ〜っとざわめいた。
だって坂羅井が手にしているのは、アコースティック・ギターだったんですもの!
「えっ?坂羅井って、アコースティック・ギター弾けたの?」
珍しく高根沢が突っ込む。
勿論、客席のざわめきもそう言う意味だ。
坂羅井は確か自分で『弾けないよ〜ん♪』って言っていた筈だけど……?
これには坂羅井の代わりに作崎が答えてくれたよ。
「リードギターなら弾ける筈でい。坂羅井はプロのベーシストでいっ!!おいらが煽てて、坂羅井にアコースティッ ク・ギターを持たせたんでい。練習してみたら結構良かったよ。だけど、坂羅井、アコギでチョッパーはやんな よ!」 
※チョッパー…ベースの奏法で親指を使って弦を叩くように弾く事
リラックスしたムードで素敵な曲達を聴かせてくれたALPEE。
さすがベテラン!このコーナーではデビュー曲の『むらさき色のLove Story』と、サードアルバムからの『キャンドルライトに揺れて』が出色。
完全に夜の帳が降りて、星が瞬き始めた頃、海からの風が心地良く私達を涼ませてくれた。
30分程オーディエンスの為にトイレ休憩が取られた。
簡易トイレは充分な数が用意されてあるし、売店もちゃんと開いているから、ファンも混乱する事が無く、みんな元気にこれまでの感想を言い合ったりしている。(ちょっと居眠りしている人もいたけど……)
その頃、ALPEE達は打ち合わせに余念が無い。今回は衣装替えを止めたので、時間が有効に使える。
彼らは楽屋にも帰らず、ステージの下でパイプ椅子に座って、スタッフと円陣を組むような形で熱心に話をしていた。
どうやら、一部曲目を変更するらしい。
マネージャーの棚の上氏が、高根沢にフロッピーディスクを渡している。
坂羅井は頻りにスポーツドリンクを口にしていた。
「こう言うお天気だと、楽器や機材にはいいんだけど、喉には悪いんだよ〜ん!」
作崎もやはりそうらしく、のど飴を舐めている。
「おいらは大丈夫でい!高根沢、酸欠になって倒れんなよ!」
「倒れないよ!俺は見かけよりは丈夫だよ」
「そーかなぁ?」
リラックスしたムードで茶化しあう彼らは永遠の少年みたいだ。
彼らが再びステージに登場したのは、11時を回った頃だった。これから3時までノンストップだ。
しかし、まだまだ元気。
『DIRTY HERO』から華々しくスタート。まるで景気を付けるかのようにポップな曲が続く。
この辺は高根沢がリーダーだった頃の曲が多く組み込まれている。
※彼らのリーダーは交替制だった。デビューから5年毎に作崎、高根沢が務め、その後はずっと坂羅井
『TURNING POINT』 『ロック・ギタリストの執念』 『COSMOS DREAM』 『君とFallin’ Love』 etc.etc.……
このコーナーは3人があちらこちらの花道に出没して大サービスしてくれたので、オーディエンスも思いっきり盛り上がった。
その後、メインステージに戻ると、またオーディエンスを席に着かせて坂羅井と作崎のトークセッションの始まり始まり!
(高根沢もステージの上にいるけど、なかなか2人のお喋りの中に入って来ない。黙って作崎のアコースティック・ギターを爪弾いている。彼はそれでBGM担当として参加しているつもりなのだろう…?)
このMCコーナーは何と45分間も続いた(!) でも、彼らの会話が面白いから、飽きる事は無い。
客席からドッと笑い声が湧く。隣で澄まして聞いている高根沢でさえも、時々耐え切れずに吹き出している。
全く彼らっていつも楽しそうで羨ましい。
3人の個性はバラバラだけど、作崎の向かって右側には坂羅井が、更にその隣には高根沢がいないと、何か私達も落ち着かない。
トライアングルの状態が3人の中ではいつでも上手く調和している。
良く3人って難しいって言うけど、そんな事は無いな、って彼らを見ている限りではそう思える。
MCコーナーが終わると、演奏が再開された。
ここで2回目のバラードコーナーだ。
オーディエンスにコンサートの終わりまでエネルギーを蓄積させる為に、落ち着いて聴ける曲が用意されていた。
『還らない日々』 『薔薇の花束を抱きて…』 『誰がために…』 『地上のIsland』 『 I Love You』 「君だけに…』 『Long,Long Ago…』 『スタジオの英雄』 『LAST CALL』 『ギタリストの背中』 『3分だけのラブコール』 『壊れたピアノ』 ……と、お喋りコーナーで、ただ笑っていただけの高根沢がフィーチャーされていた。
後で思えば、高根沢が喋らなかったのは、このコーナーがあった所為だったのかも知れない。
最後に『宇宙(うみ)へ還りたい…』を熱唱して、休憩時間になった。
丁度午前3時。疲れが出て来る頃だ。
貴重な30分の休憩時間に不躾乍らインタヴューを試みた。

 

 

−−−「調子はどうですか?今日はファンサービスに徹する分、結構動き回らなくてはならないから、体力的にきつくないですか?」

高根沢「まだ朝7時までやらなくてはならないからね。キツいなんて言っていられないよ。それに俺達自身、楽しみながらやっているからね」

−−−「そうですね。それはこちらにも凄く伝わって来ました。いつもALPEEのコンサートを拝見すると感じる事なんですけどね。でも今日は特別に違うパワー、と言うかオーラみたいな物を3人から感じます」

作崎 「おいら達はいつでも全力投球でいっ!回数を重ねる毎にパワーアップするんでい、チキショー!」

−−−「その『チキショー』は直訳するとどう言う意味ですか?」

作崎 「別に。ただの景気付けでいっ!」

−−−「坂羅井さん、おとなしいですねぇ。お疲れになりましたか?」

坂羅井「さからいおじさんは疲れ知らずだよ〜ん♪」

高根沢「エンディングをどうするか、って、今リーダー坂羅井は考え込んでいたんだよな?」

坂羅井「あ・た・り♪」

−−−「えっ?まだ決まってなかったんですか?エンディング!」

作崎 「決まってるよぉ!ただ、おいら達はその時のノリでコンサートを作ってるからさ!」

高根沢「誤解を招くから補足するけど、それは行き当たりばったり、と言うのとは違うからね。ただ、その日のオーディエンスのノリとか、会場の雰囲気とかによって考え合わせる事が出て来る訳。俺達にとって、いかにオーディエンスに楽しい夢を見て帰って貰うか、って言う事が最重要課題だからね……」

 

 

そうして、いよいよラスト3時間半のカウントダウンが始まった。
何の前触れもなしにセリで登場した3人は『こんさあと・つあー中のこんな出来事』から、オーディエンスを総立ちにさせた。
『Vitamin C!』 『なつはあついね〜!』と煽る煽る!
地面が揺れているような気がする。それ位客席が揺れ動いている。
みんな、最後の力を振り絞るように、元気にコンサートを楽しんでいる。
これだけみんなが気持ち良く楽しんでいると、見ている方も気分がいい。
それに、高根沢の心配(?)も見事クリアされた訳だ。良かったね。
あとは、ラストまで突っ走るだけだ。
でも、大丈夫かなぁ?夜が苦手な作崎にとってはこの時間は辛いんじゃないかしら?
いくらラジオのDJで鍛えているとは言っても……。
けれど、そんな心配は無駄だったらしい。作崎は1ヶ月前から睡眠時間をコントロールして、夜型の身体に矯正したそうだ。
勿論、これが終わったら元に戻すのだと言う。さすがプロである。私には到底出来ない事だ。
オーディエンスは疲れを知らない。
ALPEEのペース配分も上手いけれど、やっぱり若さかな?何てちょっぴり嫉妬。
とうとう、夜が白み始めた。オーディエンスは嫌でも別れの時が近い事を思い知らされた。
勿論、私もその1人。そしてついに、空が完全に真夏の朝を告げた頃、作崎が『夜明けのDREAM LAND』を歌った。
歌ったと言うより、とうとう歌ってしまった、と言う気持ちにさせられた。
「いつかここに『東京ドリームランド』が出来上がった時、この朝の事を思い出して下さい」
高根沢が静かに言った。
最後に歌われたのは、高根沢がリードヴォーカルを取るバラード『Eternal〜永遠に〜』………
3人はギターを下ろすと、深々と全てのオーディエンス、スタッフに頭を下げた。
長い事そうしていたが、やがて頭を上げ、何度も『ありがとう』と言って、メインステージから手を振った。
それから何と、花道7を通ってAに行き、そこからゆっくりとB、C…と観客席の外側を1周した。
オーディエンスの歓声に迎えられながら、手を振って歩く。
6万人が中にいるのだ。1周するとかなりの距離になる。
しかし、疲れを忘れてALPEEは今日最後のファンサービス!
たっぷりと時間を掛けてファンとの別れを惜しんだ後、Aの位置に戻った彼らは、最後にもう1度大きく手を振ると、フッと出口から姿を消した。

 

 

*    *    *    *    *

ALPEE本当にお疲れ様!
これ程ファン思いのアーティストを私は他に知らない。
肉体的にはとても疲れたけれど、このコンサートを体験
出来て本当に良かったと思っている。
ろくに休みもせず、また通常のホールツアーに戻って
行く彼らに、心から拍手を贈りたい。また今度はホールと
言う違う空間で逢いたいと思う。
とにかく素敵な夢をありがとう………

 

 

− 終わり −