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永遠の時間(とき)が流れて

 

EPISODE−2  『高根沢の結婚』

 

 

『ALPEE・高根沢電撃入籍!!』
ファンの女の子が見たら卒倒しそうな文字が、ビックリマーク2個付きでスポーツ紙の一面見出しに躍っていた。

 

 

『ALPEEの人気ギタリスト・高根沢紀彦(たかねざわとしひこ・34/本名同じ)がついに入籍! お相手は、 ALPEEの元ヘアメイク担当・山本瑠璃子さん(32)。167cmの長身に、メリハリの利いた抜群のスタイルを 持つ、今井美樹似のスラッとした美女だ。写真の通り、背が高い高根沢とはお似合いの絵になるカップルである。(彼女、実はバツイチ)ファンクラブ「あるぴいふあん」のデスクをしていた頃、高根沢のそばにいたいからと、ヘアメイクの学校に通い、彼のコンサートツアーやテレビ出演の際に着いて回っていた。化粧っ気は殆どなく、仕事上動きやすい服をと言う事で、生成りのブカブカなワイシャツか白無地のTシャツにジーンズを履いて、いつもキビキビと動き回っていたと言う。だが、その隠れた美しさは、テレビ局のスタッフや、イベンターの間では話題になっていた。高根沢との交際は8年程に及ぶが、その間に一旦、ふたりは別れている。音楽に夢中な高根沢がその多忙さの余り彼女を構ってやれずにいた約1年前、山本は突然スタッフを辞め、高根沢を忘れる為に、当時プロポーズされていた別の男性と結婚。高根沢も動揺を隠して祝福。その結婚式にも出席したが、結構生活は数ヶ月で破綻。その後再会したふたりは振り出しに戻って愛を育んで来た。高根沢は記者の取材に対し、彼女の離婚歴については一言も触れず、その時彼女を引き止めなかった自分が悪かったのだ、と近しい者に洩らしたと言う。昨日深夜、レコーディングスタジオがあるPEACEレコード本社に黒ずくめのに格好で現われた処を報道陣に囲まれた高根沢は「彼女は一般人なので」と言いつつも嫌な顔ひとつ見せず、マスコミ各社へのFAXと、追って事務所から配るふたりのツーショット写真で挨拶と代えさせて欲しいと短いコメントを残し、足早にビル内に消えた。それによると、挙式・披露宴は行なわないとの事。美男美女なだけに、その結婚式を見てみたかった気もするのだが。スクリーンの中の住人のような新郎新婦はさぞかし絵になったに違いない。なお、今日ファンクラブの会員に挨拶状を発送するとの事だ。また、ALPEEの所属事務所である「Wonderful Music Promotion(WMP)」では、一部で噴出した「おめでた」説については「全く無い」と全面的に否定している。バンド仲間の『さからいおじさん』こと坂羅井正流(さからいまさる・38)と、作崎鴻助(さくざきこうのすけ・34)に僅かながら話を訊けた。
坂羅井「先を越されちゃった〜えっ?別にびっくりなんてしてないよ。高根沢が黙っていたって、わたしたちは2人の事はちゃんと気が付いていたんだよ〜ん!!当たり前じゃない、長い付き合いなんだから。勿論、今回の事は事前に高根沢が彼女を連れて来て、話があったけどね!……高根沢、良かったね。お・め・で・と!家にいる時間は普通の旦那さんよりかなり少ないけど、その貴重な2人の時間を大切にしてね。ルリ、高根沢を末永く宜しくね!」
作崎 「いえいっ!羨ましいぜいっ!おいら達の中で、高根沢が一番最初に結婚するとは思ってなかったぜぃ。ルリと高根沢は昔から似合いのカップルだった。そりゃ、少し廻り道もしたけど、落ち着く処に落ち着いたって感じでいっ!良かった良かった。ルリ、高根沢が余り無理をしないようにしっかりコントロールを頼むぜぃっ!」
また、高根沢の妹で美人女優の誉れが高い、高根沢絵理(たかねざわえり・31)はフジヤマテレビで来月放送(放送日未定)される、今番組改変期の超目玉ドラマ「螺旋階段」のロケ先で報道陣に囲まれ、「ひとつ上の何でも話せる姉が出来て、とても嬉しく思っています。えっ?私ですか?今の処、全く結婚の予定はありません。兄も片付いた事ですし、良い方がいらっしゃればそろそろ(結婚)してもいいかな、とは思っています」とコメントしている。
高根沢の電撃入籍については、芸能界にも衝撃が走ったようだ。高根沢ファンを自認する映画女優の赤坂深雪(あかさかみゆき・36)は、「とうとう1人の女の物になってしまった」とガックリと肩を落としていた。ALPEEのコンサートツアーには必ず1シーズンに3回以上参加していると言うタレントの近藤美奈(こんどうみな・21)は、「最初はショックでした。高根沢さん、取られちゃったみたいで…でも、おめでとうございます。これからもコンサート、行きまぁす!」と明るく語った。
ALPEEのノベライズを担当する専属作家であり、作崎のラジオ番組などの放送作家もしている「office m’s heart」の真木野聖(まきのせい・年齢不詳)も、「高根沢さんは私に取って永遠の憧れの人です。山本さんが羨ましい…」と死にそうな声で心境を口にした。
※ 真木野聖…minakoのペンネーム 
また、高根沢の手により歌手として大きく成長を遂げた、実力派シンガーで元アイドルの真山由紀(まやまゆき・28)は、複雑な胸中を吐露した。「おめでとうございます。と言う気持ちと、何か寂しい気持ちが同居していて、正直な処、とても複雑な気持ちです。でも、どうかお幸せに!高根沢さん、これからも宜しくお願いします」
高根沢に発掘されてデビューした人気バンド『AFFECTION』の面々は、全員が手放しで喜んでおり、リーダー の紅鐘沢星彦(あかねざわほしひこ・27)は、「知りませんでした!それは良かった。おめでとうございます!ルリさん、綺麗な方ですからね。お似合いだと思います。お祝いに高根沢さんに捧げる歌を作らなくちゃ!」と張り 切っている。
高根沢を熱心に口説いて自らのジャパンツアーに参加させた元『REDS』のギタリスト、ジミー・ペイズリーも、本紙の電話取材に対し、「トシヒコ、おめでとう。お幸せに!お祝いに僕の大事なギターを贈るよ」とお祝いの弁を述べた。
高根沢はマスコミ各社に送ったFAXの中で、ファンに対する気遣いを示している。
「ファンの皆さんには、急な事で驚かせてしまい、申し訳なく思っています。ALPEEも、そして高根沢も、決して今までと変わる事はありません。みんなの期待を裏切らないように、感性を磨いて良い作品を作り、エキサイティングなLIVEを精力的に続けて行きます。どうか、これからもずっと変わらない応援をお願いします」
山本さんがバツイチだからと言って、彼女を誹謗したり、剃刀を送り付けたりして、高根沢を哀しませるのはよそうじゃないか。とALPEEのファンに言いたい。彼らが一番大切にしているのは君達なのだから。静かに見守ってやって欲しい。
そして、高根沢の作る音楽に新たな世界が滲み出て来るのを楽しみに待っている事にしよう。』

 

 

新聞の記事はそう結ばれていた。
実は、瑠璃子と別れたのは、彼女が音楽にのめり込む高根沢を待ち切れずに、他の男性と結ばれて、その結果子供が出来た為だった。
高根沢は瑠璃子の30歳の誕生日に「今はまだ音楽に夢中で君だけを見ている事が出来ない。君を縛り付ける権利は俺には無いんだ……」と彼女に告げていた。
瑠璃子は「いつまでも待っている」 そう答えていた。
「あなたは音楽が恋人なのだから」と。
それでいい、と瑠璃子はその時、確かにそう思っていた。
だが、緩やかに流れる時は、彼女の心を癒す処か、寂しさに埋もれるように過ぎて行った。
そして………………
瑠璃子は残酷なのを痛く承知していながら、高根沢を自分の結婚式に招待した。
そうしなければならなかった。
それは、高根沢を思い切る為にした事だと、高根沢自身が一番良く解っていた。
しかし、彼は結婚式に出席しながら後悔していた。
なぜ、その子供を自分の子供として受け入れて、瑠璃子を包み込んでやれなかったのか…自分で自分を激しく責めた。
失われた物は大きかった。
高根沢は心労で見るからにげっそりと痩せ、周囲を心配させた。
当時の週刊誌やスポーツ新聞には「高根沢さん、大丈夫?過労気味では?」と言う見出しも目立っていた。
彼のワーカホリック振りは、世間で認知されている程だったのだ。
事実、この時期、高根沢は疲れ切っていた。
親切ごかしに詮索されて報道されても、それを否定するのも煩わしい位に。

 

 

瑠璃子の、『妊娠→結婚→流産→離婚』と言う経緯については、詮索されなかったようで、高根沢はホッとしていた。
触れないで欲しい心の傷みは、自分の胸の奥深くに仕舞い込んで鍵を下ろした。
今夜も彼は、PEACEレコード本社ビル12階の第1スタジオのレコーディングブースの中だ。
結婚したとは言っても、余り変わらない生活を送っている。
違うのは疲れ切ってマンションに戻れば、部屋に暖かい灯りが点いていて、優しく出迎えてくれる瑠璃子がいる事だ。
その事が、どれだけ自分に必要な事だったのか、高根沢は今、実感している。
もう二度と瑠璃子を離さない。心からそう思った。
廻り道をして、やっとお互いに安らげる場所を見つけたのだ。
高根沢がギターダビングをひと区切りさせた処で、食事に出ていた作崎が戻って来た。
「ヒャー、すげぇよ。この下!マスコミだらけでぃ。おいらは裏から入って来ちまったけど、坂羅井と棚の上は表から入ろうとして捕まったらしいぜぃ。バカだねぇ〜」
白と青のマーブル模様のTシャツに、ジーンズ姿が良く似合っている作崎は眼鏡を人差し指で押し上げてニヤっと笑った。
「高根沢は出前にしといた方が良さそうでい」
「坂羅井、大丈夫かな?」
高根沢が心配顔になる。
瑠璃子と一緒になった事で、高根沢は心身ともに癒されているのか、痩けた頬も大分元に戻って来ていた。
そして相変わらずその儚さを孕んだ美しさは際立っている。
「心配だからって出て行くなよ、高根沢。おめぇが行ったら却って騒ぎが大きくなっちまうからな………でぇ丈夫でいっ!あいつらなら巧く煙に巻いて帰って来るぜいっ」
作崎の言葉が終わらない内に、スタジオの扉が開いて、やっと報道陣から解放された坂羅井とマネージャーの棚の上が入って来た。
「作崎ィ〜。自分だけさっさと裏から入っちゃって…ずるいよ!」
と言いながらも、坂羅井の眼は笑っている。
「いや〜、高根沢さんの人気を改めて再確認しました。凄いですね〜」
棚の上もボヤキ気味に言う。
「悪いな。騒ぎに巻き込んでしまって……」
高根沢が本当に済まなさそうに言った。
「いいのいいの!おめでたいんだから。その代わり、わたしが結婚する時にはわたしの代わりに高根沢に記者会見でもやって貰うよ〜ん!」
「おいおい、坂羅井、そんな予定あんのかよ?」
高根沢が答える前に作崎が突っ込んだ。
「ある訳ないでしょ?あったら黙ってられない性格なんだから……さあ、仕事仕事!」
「へ〜そうなの?ふ〜ん……それはそうと、アレはどうしたぃ?ほら、八王子のあの、楠原嬢は」
「ん〜?な〜んのことかなぁ?」
更に突っ込む作崎と、惚ける口調の坂羅井。
「で、絵理ちゃんの方はどうなのかな?作崎ィ〜?」
坂羅井がサングラスの奥から少し怪しい眼で反応を伺うように作崎を睨め付ける。
「へっ!どうせ見向きもされねーよ!」
作崎が拗ねて見せた。
「……全く、おまえらっていい漫才コンビだな」
高根沢が堪え切れずに、クックックッ…と肩を震わせて笑い出した。
「あっ!高根沢が笑い袋と化しちまったぃ!坂羅井、こりゃあ当分レコーディングは無理でぃっ」
作崎が苦笑した。
「そしたらさぁ。今日のれこーでぃんぐは中止!…新婚さんは早くルリのとこに帰りなよ!」
坂羅井が言うと、高根沢は彼の頭を軽く小突いた。
「バ〜カ!何を言っているんだ?坂羅井。俺は一歩家を出たらALPEEの高根沢なんだぜ。公私混同はしない」
「ほ〜らね!もう笑い袋が止まったよ〜ん。根っからのわーかほりっく!」
坂羅井が作崎に向けて邪気の無い笑顔を見せた。
「それじゃあ、そろそろやろうか!高根沢先生っ!!……結婚して ぎたー の ふれえず がどんな風に変わったか、聴きたいな!」
「おう。そいつはおいらも聴きてぇ」
「そんな簡単に変わる物か!」
高根沢は文句を言いつつも、密かに幸せを味わっていた。
だが、幸せにかまけて、作る音楽がつまらなくなった、などとは絶対に言われたくない。
より精進しなければ……と、自分に言い聞かせつつ、高根沢は作崎、坂羅井と共に、楽器と機材が並んだレコーディングブースに入って行った。 

 

EPISODE−2  −終わり−