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永遠の時間(とき)が流れて

 

EPISODE−6  『ジミー・ペイズリー再来日』

 

以前からのラブ・コールを実らせて、初来日ツアーに高根沢をギタリストとして招いた、元『REDS』のジミー・ペイズリー。
彼はまだ、高根沢をワールドツアーのメンバーに迎える事を諦めた訳ではなかった。
高根沢がそれ程までに拘わり続けるALPEEとは一体どんな物なのか改めて興味を持ったジミーは、とうとうそれを自ら確かめる為に10名程のスタッフを引き連れて、2泊3日の強行スケジュールでALPEEの夏のオールナイト野外コンサートを見に2度目の来日を果たした。

 

 

ジミー・ペイズリーの来日とその目的は、勿論客席の確保などの為に、一部のスタッフには知らされていたが、ALPEEのメンバーの耳には入れられていなかった。
いつも通りに演って欲しい、と言う所属事務所社長の野槙の親心だったが、それはマスコミによって踏みにじられた。
大々的に彼の来日目的が報道され、メンバーの知る処となったからだ。
高根沢は複雑な心境だ。
彼にもジミーとやってみたい気持ちはある。
ジャパンツアーに同行してからは尚更その気持ちは強くなっている。
しかし、彼にはそれ以上のALPEEと言う存在があり、日程的に両立が難しい以上は、ジミーのワールドツアーに参加する事は出来ない。
2つの事を天秤に掛ければ結果は明白。
ALPEEから離れる事が出来ないのは、高根沢にとっては、紛れもない事実であり、だからこそ葛藤の元になっていた。
高根沢は自分をじれったく思った。
なぜ、はっきりと見切りが付けられないのか………
ジミーにははっきりと断りを入れてある。
それでも、彼が諦めないと言う事は、高根沢自身に隙があるのではないか。
強く申し入れればやってくれそうな雰囲気があると言う事なのだろうか。
高根沢は、ジミーが見に来ると言うこのライヴで、自分自身にも決着を付けるつもりでいた。
自分は『ALPEEの高根沢』。
それ以上でもそれ未満でもない。
その自分にとっては当たり前の事実をジミーに、そして改めてもう一度自らにも突きつけようと思った。
それが出来た時、自分は、今となっては『ALPEEの次に』心の中の大きな場所を占めるジミーの存在を超えられるような気がしていた。

 

 

ジミーの来日が報じられた翌日がオールナイトコンサートの当日だった。
全方向ステージの至る所にビデオクルー用の物とは別のクレーンが設置され、オーディエンスの間では3人がそこに登ってくれると言う期待が嫌が往にも高まっている。
当日の為に、3人がみんなで歌える曲を作り上げており、その曲はそのままライヴレコーディングされる事になっている。
7万人規模の歴史に残る大合唱だ。
高根沢作曲、坂羅井・作崎共作詞の『新しい夜明け』は美しく解り易いリフレインが印象的な曲である。
勿論、オーディエンスの前で初めて演奏される。
きっと知らないイントロが流れ出したら、その曲が12時間に及ぶ今回のライヴのラストソング………
あるぴいふあんの間では、暗黙の了解となっている。

 

 

開演直前のガヤガヤとした舞台裏………
3人の楽屋だけが、シンと静まり返っている。
精神統一の時間なのだろう。
いつも賑やかなメンバーもステージ上で最高の状態でプレイをする為に、自分自身を一番良い状態に高める。
それがプロだ。
先程、スタッフがジミーがPA席の中に急遽設えた客席に入ったと伝えて来たが、もう既に3人は間もなく始まるステージに精神集中して、そんなプレッシャーは忘れていた。
作崎はお決まりの赤いジャケットに白い無地のTシャツ、そしてお似合いのジーンズ。
坂羅井は、渋いグレーの光る素材のワイシャツに紫のパンツ。そしてそれを赤いサスペンダーで吊っている。
そのサスペンダーに大人しく小さな白いハートマークを発見。当然ながらトレードマークの帽子を冠っている。
高根沢は、真っ白なドレープ使いのブラウスに黒い皮のスリムパンツ。
長い足にピッタリしてとても似合っている。
でも、真夏にはちょっと暑そう。
開演5分前、バックを務めてくれる後輩のAFFECTIONのメンバー5人が、3人の楽屋の前で待機していた。
「宜しくお願いします!」
力強く挨拶する。
そして楽屋から出て来た3人と、順番に右手を重ね合う。
「おうっ!」
気合いを込めた。
会場でのリハーサルは設営の都合で、昨日の夕方行なっただけだ。
後は、都内のスタジオでずっと長い間詰めて来た物を全て出し尽くすのみだ。
客席には、高根沢絵理や瑠璃子の姿も見える。
スケジュールの都合を付けてやって来たらしい、真山由紀もサングラスを掛けて、マネージャーの黒沢真理嬢と
駆け付けている。
ALPEEのコンサートには多くのアーティストがお忍びで見に来ると言う事で良く知られている。
実際、良く見ると、関係者席には中堅どころの人気バンド『架空律』のメンバーらしき姿がチラホラ見えるが、折角
お忍びで楽しんでいる処を申し訳ないので、知らぬ振りをしておく事にしよう。
※ 架空律…昔、同人誌を一緒に作っていた堀口ゆう氏のオリジナルキャラ。名付け親は仲間のS・Kさん。

 

 

最近では開演時のBGMとしてオーディエンスにはお馴染みとなった、ビバルディーの『四季』が流れ出した。
勿論、今日は第二楽章『夏』である。
いよいよだ。
オーディエンスは気負い込み、歓声が上がっている。
ステージの下では3人が息を詰めてセリの上に待機している。
AFFECTIONの演奏部分も別のセリになっていて、5人は既に楽器を手にスタンバイを終了した。
『四季』がフェードアウトして行く中、まずALPEEの3人が乗るセリから上昇し始めた。
3人の姿がオーディエンスの眼に映る前に、その歌声が会場に流れ出した。
いきなり、マイクを通さないア・カペラだ。キャー!っと言う歓声の後、オーディエンスはすぐに潮が引くように静かに彼らの声に聴き入った。
曲は『Red Roses』。
サビのコーラス部分のア・カペラから入り、3人は徐々に姿を7万人の前に晒し出す。
ア・カペラが終わると、高根沢がエレキギターで印象的な泣きのメロディーで始まるイントロを奏で始めたのを合図に作崎は向かって左側に、高根沢は向かって右側の定位置に移動した。
坂羅井は真ん中に残る。
同時に後ろのAFFECTIONのメンバー達のセリも上がり始めた。
この夏の祭典のオープニングに、派手な曲を避けてバラードをぶつけて来た処で、既に彼らはオーディエンスの意表を衝いていた。
数曲はしっとりと曲を聴かせる方針らしい。
1曲目が終わっての作崎の第一声は、
「いえいっ!ALPEEのオールナイトコンサートにようこそ!またまたやって来ました。ALPEEとみんなの夏のお祭りでい。今回のテーマはみんなも知ってると思うけど、『心・全開・丸裸』でぃっ。まずは、思い出の曲をバンバンやって、みんなの心をストレスやしがらみやらを忘れて、もっと自由だった頃に戻しちまおう!覚悟しとけよ。丸裸にしちまうぜぃっ。てなわけで、折角曲がりなりにも椅子があるんで、座りにくいとは思うけど、良かったら座って聴いてくれいっ!」
会場設営スタッフが作った横に長い板製の椅子だが、一応、高さは低いがベンチの様になっている。
いずれ、オーディエンスに踏み台にされてしまうだろう。
勿論、その事も考えられた上で、頑丈に作られている。
何でもありのALPEEは夏のイベントで、バラードをじっくりと聴かせる腕も持っている。
自分達に自信がないと出来ない事だろう。
少なくとも、ジミー・ペイズリーはそう感じた。
客あしらいも上手い。
3人のバランスの良さを彼は実感した。
そして、楽曲のバラエティーの広さとその質の良さ。
何時の間にか、しっとりと聴かせていたバラードコーナーが終わり、すんなりとオーディエンスは総立ちになっていた。
ハードロック、ポップス、………そう言った分野で区切ってしまうには余りにもバラエティーに富んでいる。
3人とも楽曲を作れると言う事にも起因しているかも知れない。
おまけに彼らの演奏技術も歌もコーラスも素晴らしい。
高根沢の事は勿論解っていたが、他の2人、作崎の繊細なアコースティックギターのテクニックは絶品だし、坂羅井もふざけているだけかと思ったら、それはとんでもない事で、彼のキャラクターはしっかりとしたベーシストとしての技術があった上に裏打ちされた物であった事が、改めて確認された。
ジミーは最初の内、いろいろな事を考えながらコンサートを見ていたが、何時の間にかそんな事はどうでも良くなって来た。
3人のサービス精神。
それぞれに出来る事を、お互いに全幅の信頼を寄せて相手に任せている。
そのバランスが絶妙なのだ。
そこまで考え及んだ時、もう考える必要はない事にジミーは気付いた。
そして、意識せずに自然にコンサートを心から楽しみ始めていた。
「ブラボー!」
気が付けば、観衆の歓声に合わせて、自身もそう叫んでいた。
初めは12時間全てを見る気はなかった。
しかし、全く飽きさせないステージングを見ている内に時間など忘れていた。
連れて来たスタッフに何度か肘で突かれたが、もうその時彼は「終わりまで見たい」と心から思っていた。
体力の心配は残ったが、ALPEEの3人の迫力に気圧されしたかのように、彼はもう既にALPEEのオーディエンスと一体化し、ただのファンになっていた。
とうとう諦めて、帰る時間を気にしなくなったジミーのスタッフ達も、一緒になってコンサートを楽しみ始めた。
長い時間を感じさせない、オーディエンスを飽きさせない練りに練られた構成だった。
何度もこう言うコンサートをやって来たノウハウが1つも無駄にさせずそこここに活かされている。
さすがに万難を排して1アーティストでのオールナイトコンサートを年に2回もやり続けているだけの事はあった。
アーティストの勢いと飽くなき挑戦もあるが、優秀なスタッフが付いていると言う事も重要な利点だ。
そして、ALPEEの3人は、その事を一番良く知っている。
だから、このチームの結束は強いのだ。
ジミーは高根沢が全てを捨てて自分の所に来なかった理由をやっと悟った。

 

 

その後、坂羅井も高根沢もMCのコーナーでオーディエンスに語り掛け、リラックスしたムードで再び彼らを客席に座らせた。
高根沢がアコースティックギターに持ち替えている。
客席も疲れが出て来る頃だろうと言うので、中休み的コーナーを用意したのだ。
高根沢は、ジミーのジャパンツアーの為に作った、あの曲のイントロを爪弾き始めていた………
作崎とのギターアンサンブルの上に、高根沢のジミーよりも高音のヴォーカルが乗った。
高根沢が客席のジミーに捧げた歌だ。
敢えてそれを言わなくても、確実に本人にも伝わっていた。
ジミーはそして高根沢のアコースティックギターの腕前に舌を巻いた。
エレキギターのギタリストだと言うのに………
スタジオミュージシャンでも充分にやって行けるだけの腕だ。
ジャパンツアーの時に、テクニック的には自分が負けていると感じていたが、ジミーはそれを再確認してしまった。
これだけの物をこの極東の国に埋もれさせるのは勿体無い。
しかし………………
この時、ジミーはジャパンツアーのライヴ盤を発売する事を思い付いてしまうのである。
それが大反響を呼んでしまうのだが、それについては別の話で語ろうと思う。

 

 

3回の休憩を挟んで行なわれたオールナイトコンサートもとうとう終盤に。
夜が白み始めて来た事で、オーディエンスはその哀しい事実を知る。
今まで聴いた事もない『新しい夜明け』の壮大かつ厳粛なイントロが流れ始めていた。
とうとう……夢が醒めてしまう。
そんな空気が会場全体に溢れ始めた。
高根沢は曲が始まる前にオーディエンスにメロディーをコーチする事はしなかった。
ライヴ録音する事は周知の事実だが、敢えて今はそれを言わなかった。
自然に耳に入る内に頭にメロディーが残るように作った。
他の2人が書いた歌詞もそう言うコンセプトに則って書かれている。
解り易い歌詞と、LALALA〜で拡がるリフレインだ。
7万人の大合唱は、その場にいる全ての者に感動を与えた。
ステージの上の3人+5人は、特にその感動に打ち震えていたに違いない。
7万人の声は全て彼らに向けられているのだから。
それは大合唱の最中にいるジミーとて、変わりはなかった。
日本語は解らなくても、リフレインの処は一緒になって声を出した。
そのジミーの感動は、1台のビデオカメラの中にそっと収められた。

 

 

ジミーは打ち上げには顔を出さず、高根沢達にも逢わずに帰国の途に着いた。
来て、良かったと思った。
日本滞在はハードスケジュールだったが、来た甲斐は充分にあったと、彼は大いに満足していた。
次はホールコンサートを見てみたい。また新たに欲が湧いて来た。
ジミー・ペイズリー、また密かに来日するかも知れない。

 

EPISODE−6  −終わり−