キラキラと輝く雪が全てを覆い尽くす時…

 

 

キラキラと輝く雪が全てを覆い尽くす時、私の大切なあの人の思い出が一緒に埋もれて私の視界から消えて行く。
あの人と過ごした私達の小さな家が真っ白に染まって、そして隠れてしまった。
異国の雪山に登ったきり、2度と私の元に帰って来なかったあの人は、今、どこで何をしているの?
遺体は見付からなかった。
だから、私はあの人との再会をまだ夢見ていられる……。
あの人が過ごしたあの雪山のように、私達の街が雪景色に埋まった。
あの人を偲ぶ長い冬はまだ始まったばかりだ。
逢いたい……。
早く帰って来て。
こんなに心待ちにしているのに。
この白い雪が溶ける時、この思い出の家とともに私も溶けてしまいたい。
あの人がいるあの山に行きたいけれど、周りがそれを許さないから。
あの人の傍に行く事が叶わないのなら、魂となってそこに逝こう。
人気も無くなった静けさの中、深々と降り積もって行く真っ白な雪。
それを飽かずに眺め続ける。
それだけが、今の私に出来る事。
もう他にする事は無い。
だって、生きる為の営みをする必要がもう私には無いのだから。
あの人がいないこの家に1人居残って何になると言うのだろう………
だから、私は暖炉に火を点す事を止めた。
この家に暖かさを求める必要は無い。
あの人と過ごした思い出と共にあの頃の暖かさは封印してしまった。
寒かったでしょうに………
あの山に行く事が叶わないのなら、私は此処で思い出の家を守りながら、あの人の元へ参りましょう。
コートも着ないで庭のブランコに座り、あの人の写真を胸に抱いて揺れながら、あの人と一緒に時間を掛けて雪に埋もれましょう。
それぞれに家庭を持った子供達よ。
どうかあの人の所へ行く私の我儘を許して。
愛する子供達よ。
もう雪に埋もれて、ブランコが揺れなくなったわ。
あなた達を乗せて良く揺らしていたブランコ。
若い頃にはあの人と2人で揺らしたブランコ。
足の方から感覚が無くなって行くわ。
あの人もこんな風にじわじわと雪に埋もれて行ったのかしら……
早く逢いたい。
この雪深い街で、あの人が帰って来るのを待っているの。
きっと私の全てが雪に埋もれた時、あの人は迎えに来るわ。
私だけに向けた優しい微笑みを浮かべて。

 

− 終わり −