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共犯者となって…今。

※ この作品は岩崎陽子先生の作品『無頼−魔都覚醒−』2巻を
読ませて戴いて浮かんだ事を書かせて戴きました。

 

 

池田屋事変から一月が過ぎようとしていた。
俺は沖田さんの生命の限界を知る数少ない人間として、自分の意に反して彼の共犯者となってしまった。
彼に勝負を挑んで完膚無きまでに叩きのめされてしまったからだ。
負けた時の条件………沖田さんの好きなようにさせる。
俺が勝っていれば、彼を大人しく療養させる事が出来たのだが。
自分が疎ましい。
こうして、自分の内にもやもやを秘めている事こそ、俺の悪い癖なのだが、生まれ付いての性分で仕方が無いらしい。
自分が沖田さんだったら、どうしていただろう。
そう考えると、彼の思いも解らなくは無いのだが………。
武士の約束だから、黙ってはいるが、今でも彼を見るとハラハラしてしまう。
体調は決して悪くは無いようだが、ついちょっとした事で気を遣っている自分に気付く。
沖田さんは何も言わないが、そんな俺を重荷に思っているに違いない。
それにしても……局長も副長も気付いていない、沖田さんの不治の病いを胸に秘めている事が、こんなにも辛いとは思わなかった。
池田屋で倒れたのも、この京の夏の暑さに負けての事だと思っているのだろう。
あの勘の鋭い土方副長も、池田屋後の隊務の忙しさにかまけて、普通に振舞っている沖田さんの裏に隠れた病気にまでは気付いてはいまい。
『君の生命、あと1年が限界だ……』
胃痛を診て貰おうとして訪ねた平賀先生の所で、思いもよらず聞いてしまった余命宣告の言葉。
沖田さんが言うように、生きるか死ぬかの新撰組に身を置いていて、余命をとやかく言うのは、馬鹿げているかも知れない。
でも、生きていて欲しいんだ。
1日でも長く……。
『2年や3年は持って見せますよ』と言った沖田さん。
それでも、2年か3年後には、別れがあると言うのか………?沖田さんっ!
我儘だ。俺の。解っているさ。
でも、失いたくないんだ。
群れる事を苦手としていた俺が、まんまとあんたの術中に嵌って、何時の間にか試衛館、いや、新撰組の連中とつるむようになっていた。
あんたがいたからだよ。解ってるのか?
あんたの身体に巣食っているその病い。俺に斬れるものなら、すぐにでも斬って落としてやるのに。
時々、夜中に咳き込んでいる。
平気なような顔をしているが、夜になると微熱を発している事も知っている。
『無理をするな』
喉元まで出掛かった言葉を何度飲み込んだ事か。
あんたを其処まで突き動かす物が何か、痛い程解っているだけに、辛いのだ。
見ててやるさ。あんたが自分の身にどう始末を付けるか。
同志として、友達として、最期まで俺が見届けてやる。
少しずつだが、そんな気持ちになりつつあった。

 

 

眠れない夜を、床の中で暗い天井を眺めて過ごす。
沖田さんは夜間巡察でこの部屋にはいない。
急に外が騒然とした。
俺は、只ならぬ気配を感じて起き上がり、素早く身支度をして廊下に出た。
「どうした?」
丁度、俺の所に注進に来た隊士に訊ねる。
「沖田先生の隊が宮川町で浪士20余名と斬り合い中です。応援の出動命令が出ました!」
「解ったっ!」
余計な事を考えている暇は無い。
沖田さんの病気に一番良くないのは、疲労だ。
あの人の事だから、八面六臂の活躍をしているに違いない。
闘いが長時間に及べば、いくら今体調が良いからと言って、良からぬ事になるのは予想が付く。
俺は先頭に立って、屯所を飛び出した。
土方副長も一緒だ。陣頭指揮を取るつもりらしい。
「斎藤、何をそんなに焦っている?少しは落ち着け!」
俺は傍から見てそんなに落ち着きが無かったのか。
自分では冷静なつもりでいた。
これでは、沖田さんとの共犯関係がすぐに崩れるな。
俺は闇の中で、一瞬苦笑して、気持ちを切り替えた。
「大丈夫です、副長。沖田さんが指揮を取っているのですから、私達の出番は無いでしょう」
「何だ、手柄を焦ってやがるのか?」
土方副長はニヤリと笑った。
「折角出動したからには、少し位は働かないとね」
横に並んで走りながら、俺は土方副長に笑って見せた。
「総司の奴、平気な顔をしちゃあいるが、まだ体調が戻っちゃいねぇようだ。これから暫くの間、なるべくおめぇを一緒に出動させてぇんだが、構わねぇな?」
俺はその時、どんな表情を顔に浮かべていたのだろう。
多分、暗闇で土方副長には見えなかっただろうとは思うが……。
解っているんだ。土方さんは。
病気の正体までは耳にしていないだろうが、ちゃんと沖田さんの事を見ている。
昔から、弟のように思っていた沖田さんの事だ。
土方さんは忙しい中でもちゃんと気を配っていたのだ。
「解りました」
俺が答えたその時、前方に刀と刀がぶつかり合って出た火花が一瞬浮かんで消えた。
「やってるな?総司!」
土方さんが飛び出して行った。
俺も続いたが、もう大勢は決していた。
「もう終わりましたよ、土方さん」
ぜぇ、ぜぇと肩を揺らしながら、沖田さんが暗闇から姿を現わした。
その頬には余裕の笑みを浮かべて。
そう、池田屋前と全く変わらぬ沖田さんが其処にいた。
病気の影など、どこかに吹き飛ばしてしまっている。
「隊士達も全員無事です!」
沖田さんはニッと俺に笑い掛けた。
負けた……。本当に負けた。
好きなように生きるがいいさ。
あんたらしく生き抜け。
俺が見届けてやる。最期まで、な。

 

 

− 終わり −