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musician

 

(3)

 

高根沢のライヴは何の滞りも無く終了した。
エンディングの引き際は大した物で、アップテンポの曲で客席を盛り上げておいて、スッとステージから姿を消してしまった。
当然のようにアンコールの声が湧き上がったが、時間の都合らしく、それは叶わなかった………
作崎は、高根沢が出て来るのを待って、店の前のガードレールに寄り掛かっていた。
女の子の取り巻きが諦めて帰途に着くのを待っていたようで、彼はなかなか姿を現わさない。
そろそろお尻が痛くなって来た時、賑やかな声と共にドアが開き、お待ち兼ねの美少年・高根沢がギターケースを背負ってライヴハウスの中から出て来た。
直前まで店の人間と談笑していたようで、高根沢はその微笑みを消さずにいた。
色白の顔にピンク色の唇が可憐ささえ感じさせる。
溜息の出る様な美しさだ。
作崎は思わず2〜3歩進み出ていた。
それに気付いた高根沢は真顔になってふと足を止めた。
黙って作崎がどう出るかを待っている。
彼は自分のライヴを最前列で熱心に見ていた可愛らしい少年の事を覚えていた。
例えライヴ中であっても、印象に残る客はいる。
作崎の視線は明らかに他の客とは違った光を帯びていた。
それが敵対心では無い事を、高根沢は鋭く感じ取っていた。
「お世辞じゃなくいいライヴを見せて貰ったと思ってるぜい!ありがとさんでいっ!」
いきなり掛けられた作崎の第一声に、高根沢の顔には再び微笑が刷かれた。
「お礼を言うのはこっちの方だよ、お客さん。こんな時間まで俺の出て来るのを待っていてくれたんだ。その一言 を言う為に」
「何だか、どうしても今日中に直接言いたかったんでい。凄かった。予想以上に……」
「君、アコースティックギターをやっているんじゃない?俺が弾いている時、食い入るように見ていた……」
高根沢は右目を隠していた前髪を掻き上げながら言った。
「ライヴ中の君に見破られる位、凄い形相だったの?おいら」
「凄い、って程じゃないけど、眼の輝きが違ったよ。出来るな、って思った………」
作崎はその言葉に盛大ににっこり笑うと、
「これからは毎週通うよ。君と一緒にやりたいから」
と言い残して踵を返した。
名前を名乗る余裕すら作崎には無かった。
眼の前の高根沢には、話し掛けたら気さくに答えてくれる雰囲気が充分に溢れていたのに………
高根沢は戸惑いを覚えていた。
彼は、一緒にやりたいから、と言った。
一体彼は誰だろう?
当然湧いたその疑問を、たまたま後片付けに出て来た店員に訊ねた。
店員は高根沢に話し掛けられた事が嬉しかったのか、ニコニコしながら彼に答えた。
「名前は知らないけど、君の事を少しは知ってたみたいだよ♪高根沢くんと同じ昭和学院大の1年だって言ってた。少しだけ話をしたけど、君のライヴにかなり興味を持ってたよ♪」
高根沢は自分を尾行して来たあの少年が、何を目的としていたか、解ったような気がした。
別に悪い気はしなかった。
ここ数日、あの貼り紙を眺めるのが日課となっていたのだ。
恐らくあの貼り紙の主は彼だろう。
高根沢は殆ど確信した。

 

 

気付かれていたとは知らない作崎は、鼻歌を歌いながら地下鉄の駅へと急いだ。
新しいバンドで高根沢と並んでプレイしている自分の姿が眼に浮かぶ。
まだ自分以外誰もメンバーが決まっていないバンドなのに、全く気の早い事だ。
ベースとドラムス、そしてキーボードのメンバーをどう集めるか………?
その心配はすっかり忘れていた。
確かに高根沢は曲作りも演奏もプロ並のマルチプレイヤーだが、彼はあくまでも1人しかいない。
(取り敢えず彼を仲間にして、学内でライヴをしよう。その方が貼り紙より人目を引くに違いねーぜい)
作崎は電車がホームに滑り込む音を聴いて、慌てて切符を買い、地下鉄の改札に飛び込んだ。

 

− (4)へ続く −