雪の夜の清冽さに

 

※ この作品は急性胃腸炎で寝込んでいた私に秋枝岐路さんがお見舞いとして
 下さった作品に対するお礼として、秋枝さんに差し上げました。

 

雪が降っている。
音も立てずにしんしんと。
蝦夷地の冬は長い。
俺は眠れぬ夜を聴こえる筈の無い雪の降り積もる音と共に明かす。
近藤さんが逝き、総司も逝った。
俺の周りに試衛館時代の仲間は誰一人いない。
雪明りが窓から注ぐ夜。
その清冽さに俺は奴らの事を思った。
裏表の無い奴らだった。
俺は決して『和気藹々』と言う言葉が好きではない。
だが、試衛館の奴らの雰囲気を一言で称するには、他に言葉が見付からなかった。
別れて行った永倉と原田の消息は俺には解らない。
斎藤は今でも、どこかで生きて闘っている筈だ。
他の者は気が付けば全て鬼籍に入っている。
それだけの時が経っている。
いや、考えてみれば、新撰組が活動したのは僅か5年に過ぎない。
我々は激動の時代に生まれ、時代の中で闘って死んで行く。
誰一人として、必要の無い者は無い。
俺が隊規で処罰して来た多くの隊士の生命も、決して無駄では無かった。
新撰組を確固たるものにする為に、彼らの生命は必要だったのだ。
試衛館の面々と、そしてあいつらと、一緒に清冽な時代を生きて来た。
後の人間に『人斬り』だの『賊軍』だのと嘲られようと構わない。
俺達は信念を貫いて前だけを見て来た。
そして、新撰組の幕はこの手で俺が引く。
例え連中が降伏しようが、俺だけはそんな真似は出来ん。
※ 連中…榎本達幹部の事
新撰組此処にあり。
きっとそれを証明して見せる。
待っていろよ、近藤さん。笑って出迎えてくれるな、総司。
お前達や死んで行った隊士達に、誇りに思って貰えるような幕引きをしてやるぜ。
それが完遂出来る日が俺の命日になるだろう。 

 

 

俺自身の誇りの為に俺は逝く。
自分の人生にも立派に幕を引くつもりだ。
『誠』の信念をこの胸に抱いて………

          

 

− 終わり −